【それでいい】
一年ぶりに会う義姉は、相変わらずとても綺麗な人だった。
栗色に染められた髪は、気品を失わない程度に緩く内巻きにされ。ネイルもメイクも、派手すぎないけれど可愛らしい絶妙な塩梅だ。
いったい何だってこんなに美しい女性が、うちの愚兄なんかと結婚したのか全くわからない。騙されたんじゃないですかと尋ねたくなるけれど、彼女の左手の薬指に燦然と輝くプラチナのリングが、私の心配がただの杞憂であることを教えてくれていた。
「久しぶりね。食べたいものとかあるかしら?」
「お義姉さんのおすすめのお店で良いですよ」
私の行きつけの店なんて、チェーンの居酒屋とカフェばかりだ。この人を連れていくのに相応しい場所なんて、知っているはずもない。
と、彼女は少しだけ寂しそうに瞳を細めて淡く微笑んだ。
「その言い方、あの人に似ているわ。やっぱり兄妹なのね」
「え、何か似てました?」
はっきり言って、兄とは正反対だと言われ続けてきた。首を捻った私を見て笑みを深くした義姉の表情は、慈しむように柔らかい。
「食べたいものを聞いても、何だって良いって言うの。じゃあこれはどうかしからって提案しても、それで良いとしか答えてくれなくて。最初の頃は、本当は嫌なんじゃないかっていつも不安だったわ」
「私は! お義姉さんのおすすめのお店が良いです!」
慌てて訂正すれば、彼女はありがとうと優しく頷いてくれた。本当に素敵で優しい女性だ。こんな人とお付き合いして、結婚して、そのくせ「それで良い」なんて舐めた返事ばかりして、そして。
(こんな人を置いて勝手に死ぬなんて、やっぱりあんたは大馬鹿だよ。クソ兄貴)
――彼女は今でも心から、あんたのことを愛してくれているのに。
ちょうど三年前の今日。見ず知らずの子供を庇ってトラックに轢かれるなんて、まるでマンガみたいな死に方をしやがった愚兄へと向けて、心の中だけで罵声を吐き捨てた。
4/4/2023, 12:56:57 PM