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 実家の家族に別れを告げ、ホームに滑り込んできた新幹線に乗り込む。予約していた自分の指定席に座ると、ちょうど時間になったのか、窓の外がぬるりと動き出した。席の窓から見える景色は、小さい頃から見慣れた街並みだ。少し先に見えるあの橋、よく通ったな。新幹線の線路の下を通るこの道路、おばあちゃんちに行くやつだ。そんな見慣れた景色が、新幹線が進むにつれて、見慣れない景色へと変わっていく。

 完全に見慣れない景色になると、まるで新幹線の窓枠で切り取られた異世界を覗き込んでいるかのような気持ちになる。目の前に広がる空と田んぼ、田んぼの上を柱で支えられ、螺旋のように伸びていく高速道路を、知らない人が乗る車やトラックが飛ばしながら走っていく。爽やかな自然の営みと無機質な人工物の混ざっていくこの光景は、地元でも今住んでいる街でもお目にかかることはないだろう。

 新幹線が少し進むと、川の横の小道を自転車で走る、制服を着た学生が見えた。自転車と新幹線という別々の乗り物で、知らない学生とすれ違っていく。雑談をしているのか、笑いながら、少しふらつきながら走っていく学生は、社会でくたびれた私にとっては懐かしい青春そのもので、とても眩しかった。

 降車予定の駅に近づくにつれ、だんだんと山や田んぼといった自然が少なくなってきた。家が並ぶ住宅街に突如突き刺さったかように空へ伸びる綺麗なビルは、新しくできたマンションだろうか。どんな人が住んで、どんな生活を送るのだろう。思いを馳せていると、今度は高いビルだらけになってきた。少し前までは見なかった行き交う人の群れが見える。そんな中、何度も聞いたメロディと共に、アナウンスが流れた。
「次は、〇〇、〇〇です。お降りのお客様は――」

 さて、異世界見学ツアーは終わった。荷物をまとめよう。席を立ちドアを抜け、ホームに出ると、ザワザワと人の話し声と駅のアナウンスが飛び交っていた。
 いつもの光景に、少し安心する。ここが私が今生きている街だ。

『街』
その人が見ている、生きている「世界」

6/12/2024, 8:04:32 AM