あと2日くらいだろうか。満月になりそうな月を君と見上げている。
「I love youをね、ある国の物書きは『月が綺麗ですね』って訳したんだって」
月を眺めながらロマンチックだよねぇと語り君はお供に持ってきた緑茶を飲んだ。日常会話にありがちな、相槌を打てば終わる会話も彼らの手にかかるとドラマチックになるらしい。彼らの感性がそうさせるのだろうか。
「それは相手に伝わったのかい?」
「相手の人にしっかり伝わってまた素敵な返しだったんだよ。2人だけに分かる会話って秘密めいてどきどきするね」
「直接伝える方が俺は好きだけど…。そうだ」
体勢を変えて君に向き直ると君の背すじがしゃんと伸びて愉快だった。そんなに身構えたって取って食ったりしないのに。
手を添えるともちもちしている君の頬は冷たかった。日は長くなりはじめているのに夜はまだまだ冷える。その証拠に緑茶の湯気がずっと揺れていた。
「月が、」
「月が…?」
一呼吸おくと君も繰り返した。その先をまだと問いかけ大きく開いた期待の眼差しの中に星と月が。
「月が映った君の瞳はとても綺麗だね」
すぐに気の効いた台詞が出てこずに物書きの台詞を借りてしまった。どうかな、と君を見つめれば
「し、死んじゃう…」
「死なないでよ」
効果は上々で、熱烈なお返しにくすりと笑みがこぼれてしまう。
もっと俺と君だけに分かるようなものは追々考えるとして。自然な動作で口付けると君の唇はぬるく、緑茶の味が残って、頬にも熱が集まりはじめていた。
1/29/2024, 11:57:32 PM