家宝

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あの木が桜色になったら私、死ぬんだって。

そんなんわかんないじゃん。そんなの、なってみないと。
私だってあなたが長くないって知っていたつもりだったけど。まさかそんなに―

月日は流れ日に日に衰弱していく私を見て、あの子はどんどん顔が曇っていった。一分一秒がおしいといった目で見つめて、私の心には罪悪感が芽生えた。
どうしても会いたくなくなって、布団を頭までかぶって子供みたいにやり過ごした。悲しそうな背中が病室を出ていくのを見て、このまま死んでしまえばと思った。
病室の外の丸裸の枝を見て、担当医のもうすぐ春だという声に耳を傾けた。

いよいよさいごの日になって、異常な眠気と戦いながら私は窓のそとを見た。満開の木があるだけで何もなくて。さいごの景色にはなんだか物足りない。
動かない足と共に、私ははやすぎる生涯を終えた。
さいごに聞いたのは、あなたの泣き声の混じった笑い声だった。
ねえやっぱりさ、こういうのって葉っぱが落ちたらにするべきだったかな。

8/3/2023, 5:51:55 AM