草臥れた偏屈屋

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「灰色ってんのは良いもんだ。白黒分けずに済むからな。」
旧友はタバコを喫みながら、こちらに目線を移した。
「なんだ藪から棒に。今更怖気ついたか。」
「だってよ、俺だって根っからの悪人ってわけではないんだぜ?好きで誰がこんな目に遭うかっての。」
煙が立ち込めているなかで私は吸い殻入れに灰を落とした。
「自己弁護などとは物珍しい。その程度の釈明なら言わぬが花だったかもな。」
「手厳しいな。こっちの身にもなってくれよ。」
「断る。」
じりじりと焼きつく音が聞こえれば灰は生まれ、吸い殻入れに落とされていく。煙によって彼と私の間には大きな壁があった。
「運の尽きかな。」
私は彼のその言葉に苛立ちを覚えた。彼は今の状況を煙たがっているようだ。
「悪は常に中途半端だ。」
そんなことを呟く私を彼は嘲るように笑い出した。
「俺は本当の悪人ってのを見たことあるんだぜ?お前が知らないような極悪人ってやつをよ。」
彼はまるで己だけが真実を知ってるかのように、やけに上から私を見つめる。その傲慢さがここまで来たんだろうに。
「どんな悪逆非道な奴だって中途半端だ。」
「違うな。あいつらには罪悪感も迷いもない。」
彼は2本目に火をつけたが、私はしなかった。まただ。また彼は己を憐れもうとしている。変えられるものを変えずに、ただ変えられなかったものを嘆いてはいる。
「そこまで君は愚かだったか。私はどうやら君を過大評価してたようだ。はは、責任から逃れて甘い蜜だけを吸おうってんだ。これのどこが中途半端じゃないって言うんだ。」
「そうか。所詮は責任能力かよ。」
彼は私に背を向けた。しかし、私は笑いが止まらない。
「自身の行動を自覚しているのならば、なぜわざわざ中途半端でいるのだ。善人気取りも甚だしい。自分と向き合え半端者が。」
彼は煙草を投げ捨てた。放り捨てるなんて悪行を増やす滑稽さは天然か人工か。どちらにしても拾うのは彼自身には代わりはないのに。
「お前は向き合っているって言えるのか。」
彼はどうやら私を責め立てようとしたみたいだが、すり替えなんぞ通じぬ。
「お生憎様、君よりはな。さあ、さっさとその薄汚い手で己のゴミくらい拾え。それ以外に君が己の尊厳を保てる道はない。」
彼は眉を八の字にし大きなため息を吐いた。
「ダメだな。逃げ場がないようだ。」
そう言うと、拾い上げた灰を落として去って行った。

6/22/2024, 9:03:20 AM