暗夜姫

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こんばんは。
今回から、今までのようなポエム(ポエムと言っていいのかは分からないが、とにかくポエムと表現しておく。)に加え、お題によっては短い小説も書いてみようと思うので、よろしくお願いする。
さて、今回のお題は「耳を澄ますと」。
小説を書いてみようと思う。
少しお知らせのようなものを描いてみたが、前置きはこのくらいにしておいて、本編を書いていこうか。

「耳を澄ますと」
私にとって耳を澄ますと聞こえてくるもの。
それは他人と少し違う。
聞こえてくるのは、”他人の本音”と”人ならざる者の声”
嫌なものばかりが耳に入ってくる。
”他人の本音”というものは黒いものばかり。
”他人や物事に対する小さな愚痴”
”他人に対する妬みや嫉み、憎悪”
程度は違えど、黒い、負の感情ばかりが自身の耳から流れ込んでくる。
”人ならざる者の声”は、”自分を嘲笑う声”。
”あれは人の子か”クスクス
”そうだ、心の弱い人の子だ”クスクス
嫌な声ばかりが聞こえてくる。
怖い。人ならざる者が。
俯き、耳を塞ぎながら道を駆ける。
耳に流れ込む声だけで心が押しつぶされそうだ。
それなのに。
周りの人の目線が刺さる。
さらに怖かった。
冷たい目線。奇異の目線。
そして、家に着いた。
鍵を開けて、中に入る。
誰もいない、暗くて冷たい家の中。
だが、妙に落ち着いた。
家の中は、”他人の本音”も”人ならざる者の声”も少しだけ聞こえなくなるからだ。
ひとつため息をつき、考え事をする。
だが、こんな状態では碌なことを考えない。
だからだろうか。
ふと、ひとつの想いが頭に浮かんだ。

”死にたい”

そうだ、もう、疲れたんだ。
”他人の本音”が聞こえてくる。
”人ならざる者の声”が聞こえてくる。
どちらも、私を必要としていない。
それどころか、あざ笑う。貶す。
思い返せば、私に対する本音はみんなそうだった。
それに、”人ならざる者の声”が嫌で、急いで岐路を辿れば、奇異の目で見られる。
自分の居場所など、最初からないのだ。
そう、思った。
だから、死んでしまおう。
もう、こんな世界で生きている意味なんてない。
でも、この場所で死んだら迷惑がかかる。
だから、森へ行って死のう。
そうすれば、あまり迷惑にはならないだろう。
そう思い、軽く準備をした。
だが、もうとうに日が暮れてしまっていた。
だから、眠って、次の日に行くことにした。

次の日。

森へ行く。
森は家から案外近いところにある。
だから、すぐに着いた。
木々が生い茂る深い森だ。
私は奥に行った方が良いと判断した。
そして、奥へ奥へと進んでいく。
進んで、進んで、ひたすらに歩く。
どのくらい歩いただろうか。
疲れてきた。
だが、歩き続ける。
歩き続けて、限界が来そうだという頃。
古びた神社を見つけた。
苔むしている。
何十年と放置されたような感じだ。
少し休もうと、神社の境内に入り、座る。
あぁ、眠くなってきた。
そして、私の意識は闇に沈んだ。

・・・。

どのくらい経ったろうか。
眠っていたようだ。
・・・あれ、暖かい?
なぜだろう。
私は古びた神社で休んでいたはずだ。
目を開けると、誰かに膝枕をされているようだった。
だが、私はすごく眠くて、起き上がることが出来ない。

「起きたかい?」

その声で少し意識がはっきりする。

「あぁ、寝ていていいんだよ。
無理に起きる必要は無い。」

その声の言う通り、私は静かに横になっていた。

「そのままでいいから、私の話を聞いて欲しい。」

私は眠くて、はっきりしない意識の中、頷く。

「私は、ここに住む妖だ。
ここに人間が来るのは何十年ぶりかなんだ。
君は何をしにここへ来たんだい?
この神社が目的では無いのだろう?」

私は、眠くて上手く回らない口で答える。

「しに、ばしょ、さがし、てた。」
「死にたいのかい?」

話す気力もなく、頷く。

「なら、ここで一緒に暮らさないか?」
「?」
「君はまだ、若いだろう?
その歳で死ぬのは惜しいと思うけど。」
「でも、もう、つか、れた、から。」

どうしようもなく眠い。

「そう。なら、死ぬのは良いけど、その前に少しここで過ごしてみないかい?」

どうしようもなく眠くて、また、ウトウトしてくる。

「眠そうだね。今は、ゆっくりおやすみ。」

その一言で、また、眠りの海に沈む。
深く、深く。
心地よい。
沈んでいく感覚が。
頭を撫でられているようだ。
もう、起きたくない。
何もかもが心地よい。
このまま、あの辛い日々を忘れて眠っていたい。
そして、すぅっと意識が沈む。

「そろそろ、起きないのかい?」

その一言で、目が覚める。

「おはよう。よく眠れたかい?」

嘘のようにスッキリしていた。

「え、はい。」
「良かった。」

そして、何故か抱きしめられた。

「えっと?」
「君は、死にに来たと言っていたけど、どうして?」
「あ、それ、は・・・。」
「人間に何かされたのかい?」
「されたというより、自分のせい、だと思います。」
「どういうことだい?」
「他人の本音が聞こえてしまうんです。」
「自分に対しての?」
「自分に対してのがほとんどです。
それに、嫌な本音ばかりが聞こえます。」
「だから、人の世が嫌になった?」
「まぁ、はい。」
「もしかして、人以外からの声も聞こえる?」
「そうです。ずっと、笑われてます。
それに、それが嫌で、耳を塞いで走ってると、周りか らの視線が痛いです。」

話していうちに、私は泣いてしまった。

「それは、人の世が嫌になるわけだ。」

そのヒトは、私を撫でてくれた。
優しくしてくれた。

「死ぬのをやめて、ここで暮らさないかい?
なにも、無理に人の世にいることも無いんだ。」

そう言われて、嬉しかった。

「いいんですか?」
「もちろん。それと、敬語じゃなくていいんだよ。
あぁ、そうだ。自己紹介がまだだったね。
私は、ツキカゲという。
これからよろしく。君は?」
「美月。これからよろしく、ツキカゲ。」

それからは、二人で穏やかに暮らした。

終。





5/4/2024, 1:32:50 PM