→『彼らの時間』1 〜時よ、止まれ。〜
「時を告げるって、なんか大層な言葉だよね」
小学3年生の国語の時間、隣の席の但馬ヒロトくんがそう言った。
大層という単語を初めて聞いた。僕はその意味をわかっていないくせに、彼の整った横顔に見惚れて「うん」と頷いた。ずっと見ていたいと思った。時間が止まればいいのになと思ったら、チャイムが鳴った。
「あっ、時、告げられたね」と彼は笑った。
あれから十年が過ぎた。時は止まらず、その波にのまれて、僕は大人になった。
朝、スマホのアラームが鳴る。慌ててそれを止めて横を見る。キレイな横顔が健やかな寝息を立てている。良かった、起きなかった。
「ヒロトくん、朝だよ」
僕はたっぷりと彼の横顔を堪能して声をかける。小学生の時も格好良かったけど、今は大人の色気でさらに尊い。
「おはよう」
ヒロトくんは大きく伸びをして、僕にキスをした。
「うん、おはよう」
二人だけの世界。なんて素晴らしい朝だろう。
あぁ、ヒロトくんに朝を告げる、その時間が少しでも長く続いてほしい。
この関係に多くを望んではいけないのは解ってる。優しい彼が僕に付き合ってくれてるだけだから。
それでも、僕はことあるごとに「時よ、止まれ」と願ってしまう。
終わりが告げられる、その時に怯えながら。
テーマ; 時を告げる
9/6/2024, 9:26:22 PM