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「またね。」
「たまには帰ってきてね〜!」
「ずっと友達だぞー!」
 離れていく車のエンジン音に負けぬよう、声を張り上げた。武史は窓から顔を出して、大きく手を振っていた。僕らはさらに大きく、何キロ先からも見えるように、全身使って手を振った。車が見えなくなっても振り続けた。
 武史、はなればなれになっても、ずっと親友だぞ。手紙書くからな。
 手紙のやり取りは三回続いた。それからぱったり、音信不通になった。
「田舎じゃ友達が限られてるからな。向こうで自分に合う親友を見つけたんだろ。守、お前にはもっとおとなしい子が合ってるよ。」
 僕を宥める父親に反発して、家を飛び出した。遮二無二走っていたら足を滑らせて田んぼへ落ちた。前髪まで泥だらけで、視界を塞がれる。
 そしたら、武史の姿が見えた。泥だらけの僕を見下ろしていた。武史は寂しそうに口を開いた。
「なあ、守。俺、はなればなれになっちゃった。」
「ああ。僕ら、はなればなれだね。」
 僕と同じ気持ちだったのが嬉しかった。やっぱり僕の幻覚で、すぐに消えた。
 泥だらけで家に帰ると、怒られた。
『速報です。今朝未明、〇〇県の山中で、身元不明の──』
 父親はテレビを消して、怒った。しばらくテレビ禁止だって。あーあ、つまんない。武史、帰ってこいよー。

11/16/2024, 9:48:14 PM