左様なら

Open App

嵐が来ようとも、凪が訪れようとも、箱庭に在る彼女は変わりない。天候に弄ばれている俺をひと笑いもしない。確かに窓辺の安楽椅子に腰掛け、外を眺めているのに。
であれば、あの丁寧に磨かれたエメラルドの如き瞳は、一体外の何を眺めていると言うのだろう。今の庭で一等目立っている俺を眺めないで、一体何に心を動かすと言うのだろう。そう考えれば考えるほど、俺は彼女の事が好きになって行ってしまう。
…………という所まで想像して、僕は目の前の現実に意識を戻した。左手に持った鎌で、目の前の葦を刈り取る。僕が作り上げた薔薇の園庭で悪目立ちしていた雑草は、あっという間にその存在感を失せてしまった。
死んだ葦を掴んで立ち上がる。屋敷を振り返れば、窓辺の彼女と目が合った。エメラルドの如き瞳を持つ、美しい少女。そんな彼女に、僕は右手を振った。葦は死んだと告げるように。
上等な白いレースカーテン越し。彼女は絶対に、僕の為にひと笑いしてくれているに違いない!!

7/29/2024, 7:09:12 PM