木枯らしが吹いて、葉っぱが地面を転がって行く。
道路には葉が全て落ちた街路樹以外には何もない。
まるで世界に誰もいなくなったかのような錯覚を覚える。
その感覚に恐怖を覚えるが、向こうから歩いてくる男性が錯覚だと確信させてくれる。
だが寂しいという感情を想起させるには十分な風景だった。
しかし冬になったというのに、まさか木枯らしが吹くとは……
冬にもかかわらず春のような暖かい日が続き、あんまり冬のような気がしない。
と思えば秋のように木枯らしが吹く。
メディアが異常気象と言って騒ぎ立てるのも、無理の無い事なのだろう。
待て待て待て。
おかしいぞ。
たとえ異常気象でも冬に木枯らしが吹くはずが無いのだ。
木枯らしが吹くのは秋だけ、それも10月から11月にかけて吹く風をそう呼ぶ。
そういうもの、と言うのではなく定義がきっちり決まっているものだ。
それ以外の時期に吹く風は木枯らしなどとは決して呼ばないのだ。
なんで一月に吹いた風なんかを、木枯らしなどと思ったのだろう?
理由は分からない。
だが一つ分かることがある。
これは異変だ!!
『異変を見つけたら、すぐに引き返すこと』
頭にあるフレーズが浮かび上がる。
気づいた瞬間に体を反転させ、全力で走り出す。
遠くのほうを見れば、見慣れた通路がある。
あそこに逃げよう。
普段運動をしないため、すぐに息が切れる。
これから毎日ジョギングをしよう。
後悔していると、何かが後ろから何かが襲い掛かってくる気配が!
本能的に危険を感じ、止まりたくなる欲求に抗いながら道路を走り抜ける。
心臓が爆発しそうなくらい走り、ようやく通路に到着すると背後の気配は消えていた。
どうやら助かったらしい。
壁に手をついて息を整える。
後を振り返れば、ただの壁があるだけ。
通路なんて最初から無かったかのようだ。
まるで夢を見ていた気分だが、激しい呼吸がそれを否定する。
それにしても、最近流行っているというので、ゲームのプレイ動画を見ていて助かった。
気配の感じ方から察するに、すぐ後ろまで迫っていたと思う。
すこしでも判断が遅れていれば助からなかっただろう。
だんだんと今までのことを思い出してくる。
たしか見慣れない通路を発見し、好奇心から入り込んで気づいたらあそこにいた。
とてつもなく疲れた。
ホッとしていると、あることに気づく。
さっきの男性は何者なんだろうか?
もしや何かに捕まってしまった人間なのだろうか?
思わず背筋が寒くなる。
たとえそうだとしても自分には何もできない。
自分が助かっただけでも良しとしよう。
帰ろう。
誰もいない通路を歩き出す
遅い時間とは言え、誰も歩いていないと不安になるな。
そう思っていると、足音が聞こえ少し安心する。
何気なく音の方向を見ると、向こう側から見覚えのある男性が歩いてきた。
1/18/2024, 9:58:06 AM