「ワハハハハ!」
TVから大勢の笑い声が聞こえてくる。
漫才師が観客を賑わせているのだ。
ソファに座っていた俺は、思わず笑って、妻の方を向いた。
シュッ。シュッ。
妻は、ダイニングのテーブルにへばりつくように、布を広げて作業をしている。線を書く折にチャコペンを布に走らせる音だ。作業をしている妻の顔は、恐ろしく無表情だった。
空中に放ってしまった自分の馬鹿笑いが、乾いてパラパラと落ちるようだ。
慌てて妻が怒りそうな今までの自分の所業を振り返る。
…どれだ?
考え得る全ての扉を開いたが、見つからない。まだ、自分が気付いていない妻の地雷への扉があるというのか…?
その時、パンッと定規を置く乾いた音がした。
「よし!一区切りついた!お昼ごはん何が良い?」
妻は清々しいほどの笑顔で俺の方を向いた。
リビングの窓から差し込む日差しが、暖かく感じられた。
11/5/2024, 3:44:02 PM