一夜の夢

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君と暮らしたアパートの近くに、小さな公園があった。
ペンキの剥げたブランコが唯一の遊具。
天気の良い日には、二人で木陰のベンチに座ってとりとめもなく話した。
僕らは若くて、お金は無くて、それでも幸せだった。

ブランコを楽しげにこぐ子どもたちを見つめ、君は何か、憧れるような目をしていた。
僕は君の望みが怖くて、ついにそれを口に出すことができなかった。
若かったんだ。僕は。
なんの責任も持たない人生が楽で、結婚はしたくなかった。

君は物言いたげにときどき僕を見た。
不自然に目を逸らすと、失望の色を浮かべた君の瞳がちらりと見えた。
そうやって少しずつ、君の人生に僕が要らない理由が増えたのだろう。

僕の甘えに君は見切りをつけて、アパートには僕だけが残された。
今日、僕もこの部屋を出て行く。
新しい家のそばにはやはり公園があったけれど、ブランコは無かった。
君のあの目を思い出さずに済むことに、僕はこっそり安心していた。

あの憧れが喜びに変わる瞬間を見たかったなと、君がいなくなってからぼんやり思い続けている。

2/2/2024, 1:11:18 AM