道端にコンニャク落ちてた

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テーマ:『20歳』



 ――何も変わらない。




 いつかぼくも、おとなになれるのかな。

 


 ―――何も変わっていない。




 おとなになったら、ママとパパみたいになれるのかな。




 ―――実感も何も無い。


 

 忘れ物、しなくなるのかな。




 ―――もっと特別なものかと思っていたのに。




 少しは自分のこと、好きになれるのかな。



 
 ―――でも、そうか。これで大人になったんだな。



 古いアパートの一室。ちらほらと壁や床のシミが見受けられるが、学生の私が一人暮らしをするには条件が良かった。
 専門学校へと入学すると同時に一人暮らしを始めたのは理由がある。通学に便利ということもあるが、私は昔から一人暮らしは大人への第一歩として捉えていたからである。
 別に早く大人になりたいという訳でもないのだが、幼い頃から大人とは何かを考える節があったのだ。
 どうしたら大人になれるのか。大人になったら何が出来るのか。何をしないといけないのか。ふと思いついては考え込んでいた。

 そんな私ももう成人を迎えてしまった。冷えた床の上で胡座をかいて、当時の自分が考えた“大人“を反すうしているうちにその瞬間は過ぎ去っていた。

 長年、私を悩ませた“大人”について明確な答えは思い浮かばなかったが、少なくとも当時より私は自分のことが好きになっている。一人暮らしもだいぶ慣れてきたし、学校でも少しずつ就職を意識した取り組みをしている。
 20歳は既に迎えてしまったが、それでもゆっくりとだが“大人”には近づいているのではないだろうか。

 冷えきった脚を伸ばし、人生で幾度となく繰り返した長考から思考を解放する。目の前には、他の誰でもない私のために買ったケーキが鎮座している。ちょっとカビ臭いのはケーキのせいではない。
 

「じゃあ、もう忘れ物もしないな」
 

 秒針の刻む音に掻き消されぬようにひとりごちて、私は火がついていないロウソクに息を吹いた。

 

1/10/2023, 4:42:35 PM