逆光によって生まれた影に目が慣れて、その表情が、顔が、明らかにおかしい事に、ようやっと気づいた。気づいて、しまった。
あるべきところに、あるべきものが、文字通りに何もない。目がない。鼻がない。口がない。姿形は間違いなくヒトであるのに、顔だけが、いっそ美しく感じるほどに、つるりとした球面のようだった。
口から漏れそうになった悲鳴を、手で塞いで無理矢理に飲み込む。ひゅっ、と、引き攣った呼吸が声になりきらぬまま、身体の震えとぶつかっては消え去った。
逃げなくては。そう思っても、恐怖と緊張で固まった身体は動かない。目の前のヒトから視線を外せぬまま、息を殺すしかない。
佇むヒトは微動だにせず、無いはずの眼でじいと前を見据えている。
夕日が沈む。伸びた木々の影がその顔を覆った瞬間、そのヒトは音もなく、跡形もなく、空気に溶けて消えてしまった。どっ、と、心臓が急かすように脈動し、忘れかけていた呼吸が荒くなる。
誰そ彼と尋ねたのは、さて、どちら?
1/24/2023, 1:41:14 PM