教室の少し暖房が当たる貴方の席で、教科書と少しだけ板書されたノートを枕にして眠る貴方を私は何度も見てきた。
電車に揺られてカバンを抱えて眠る貴方を私は何度も見てきた。
寒いと言って布団で丸まって眠る貴方を私は何度と見てきた。
眠ることが好きな貴方を何度もこの目に映してきた。きっとこの先も私の近くで眠る貴方を見ていくのだと、そう信じてた。
しかし、そんな自分勝手が許されるわけがなかった。きっと勝手に永遠を約束したことに神様は怒ったのだ。私から貴方を取り上げてしまった。
貴方は貴方のために用意された棺に入り、綺麗な服を着て、鮮やかな花に囲まれていた。メイクをしない貴方の頬や口に淡い桃色がついていて、場違いではあるが綺麗だと思った。
貴方を見送る人達は貴方に届かない想いを、涙にして貴方に注いだ。優しい貴方のことだから、きっとこんな場面見たら焦ってしまうだろうから、眠っていてよかったと心の底から思う。
あぁ、でも貴方を好いた人達がこんなにも集まっているのだと、貴方に見てもらいたいから、やはり起きて欲しい気がする。
貴方の家族の提案で、貴方の写真をモニターに映していた。家族で撮ったもの、友達が撮ったもの、貴方のスマホに入っていたもの、色々なものが時系列順に流された。写真の中に閉じ込められた貴方は起きていた。いろんな表情でこちらを覗く。貴方の寝顔ばかり見ていたが、写真の貴方の全ての表情に惚れた。愛おしかった。映像の中には私が渡した写真も数枚入っていたが、全て眠っている貴方の写真。
起きている時も撮っておけば良かった。
後悔がこちらの様子を伺っていた。もうどうしようも無いのに。貴方はもう起きない。好きだった寝顔が今では寂しい。
貴方の部屋が閉ざされる時、皆が貴方を覗き込んだ。瞳に記憶に貴方を閉じ込めるために。これが最後。もう貴方に会えない。触れられない。眠っている顔を見れない。
私はいつの間にか泣いていた。心の何処かで涙を拭ってくれる貴方を期待して。
結局、貴方は起きてはくれなかった。閉ざされた棺は炎の中へ往く。小さくなって帰ってきた貴方は家族が大切そうに抱えていた。最期まで幸せであったであろう。
貴方の葬式が終わり、人々がバラバラに帰ってゆく。私も帰ろう。ここにいては貴方のことばかり考えて泣いてしまうから。
私が帰路に立とうとしたとき、貴方の家族に引き止められた。何事かと思ったら小さなアルバムを渡された。開くと貴方が撮った私の写真。寝たふりをしながら撮っていたのだろうか。貴方が写真に閉じ込めた私は、起きていた。沢山の表情を持っていた。写真とともに小さな手紙も入っていた。貴方の手癖で書かれた手紙。
【寝たふりをすれば、アタナがこちらを覗くから。
それがたまらなく好きだった。】
寝たふりばかりの貴方は、本音を夢の中へしまっていた。起きて伝えてはくれなかった。
「私も好きだった…。」
眠る貴方に届かない声が耳に反響して痛い。
私は貴方の寝顔が好き。そして嫌い。
No.24 _寂しさ_
12/19/2024, 2:49:26 PM