大きくなった自分の腹に手を当てる。
すると、しばらくしないうちに胎動がして、そこに確かな生命が宿っていることを知り、心底不思議なことだと思う。
まさか自分が、こんな風に誰かを愛し、また逆のそれを受け入れ、身篭ることになるなどとは思ってもみなかったのだ。
誰かを愛することなど自分には出来ないと思っていた故に、今更ながらに今の状況が偶然がいくつも重なり合って出来た奇跡なのだと実感する。
腹の中に居るこの子どもは、間違いなく、自分と、己が愛した彼の遺伝子を持って生まれてくるのだろう。
――子どもが欲しいと口にしたのは、意外にも自分の方だった。はっきりとそう言った訳では無いけれど、情事中にそれと違わぬ意味の言葉を零せば、彼はとても嬉しそうに顔をくしゃりと崩した。
男という生き物は、自分のメスを孕ませたいという本能を持ち合わせているというのに、彼は一言もそんなことを言わなかった。けれど、それは全て自分のことを考えくれている故に黙っていたのだと思う。
昼間にふたりで散歩をしているとき、彼は時折、公園で見かける家族連れへ羨望の眼差しを向けていた。子どもが欲しいのだろうかと考えて、自分が身ごもることを想像して、少し怖くなって。それでも、曖昧なまま日々は過ぎていく。
そして、幾度目かの行為の際に、彼のことを愛おしいと感じたその瞬間、衝動的ではあるが、彼の子どもを身ごもりたいと確かに思った。
自分の中の“愛しい”という感情が、こんなにも深く根付いていたのだとそのときは心底驚いたものだ。
――その時の子どもが、今この腹の中に居る。彼は毎日嬉しそうに、愛おしそうに腹を撫でてくれる。それはもう、砂糖を吐くのではないかと思うほど甘い声で、甘い笑顔で語りかけてくるのだ。
羞恥心のあまり、やめろと突き放すこともあるが、それすらも嬉しそうにするのだからどうしようも無い。
そんな甘い一日を重ねる毎、彼が居ない日常を想像するのが怖くなるほど、ずっとそばに居て欲しいという想いが強くなっていく。それと同時に、腹の中の小さな命に対する愛しさが止まなくて、その度に、はやく会いたいと願わずには居られない。
2/24/2024, 10:24:08 PM