崩壊するまで設定足し算

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▶61.「良いお年を」
60.「1年間を振り返る」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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人形が冬ごもりに向かう前に滞在していた町にて。
仕入れ屋のシブの妻で服屋を営むクロアと、
店仲間である野菜売りのベル、肉屋のミランダ、魚屋のフィーナは
年内最後の井戸端会議に花を咲かせていた。

「みんな、年越しの準備は大丈夫ね?」
野菜売りのベルが話を振れば、

「やだ、心配性ねぇベルったら」
肉屋のミランダがのんきに返す。

「そんなこと言って、年明け早々私のところに『新年用の魚買い忘れてた!』って言ってたのはどなた?」
魚屋のフィーナは鋭く切り込み、

「あ、それは…だってお肉があるから大丈夫だと思ったのよ」
「前の日まではね、でしょ?まぁ、ミランダだからね」
クロアがまとめる。

「今年もありがとう。ベル、ミランダ、フィーナ、ほんとうに」
「いいのよ、クロアはよくやってる。私こそありがとう」
「ほんと、わたしだったら挫けちゃうよー。旦那さんが冬以外ほとんど仕事で町にすらいないなんて」
「代わりに冬はべったりだものね、クロアのところは。時間まだ平気なの?」
「もう少し居たいわ、シブも休んでるし」

「そういえば、前に旦那さん様子おかしいって話してたの、解決したの?」
「あれからはいつも通りよ。ほんと、何だったのかしら」
「クロアの旦那さんが考え事なんて珍しーよね」
「仕事中の出来事だったのでしょう?街の外だもの、色々あるのでしょうね」
「そうね。私があれこれ考えても仕方ないって、思ったわ」

ふぅ、と
誰ともなくついた、ため息のような間が流れた。

「シブさんが、とにかく今の冬も無事にクロアのところへ帰ってこれて良かったわ。良いお年を迎えられそう」
「うん、そうそう。シブさんが帰ってこないと冬が来た!って感じしないもん」
「ミランダなんか冬支度の合図にしてるものね」
「あっ、言わないでー」

毎日のように顔を合わせていても、
年終わりの独特の焦燥感が、もう少しもう少しと話を繋いでいく。
良い年を、良い年を。祈るように彼女たちは繰り返した。

12/31/2024, 12:52:37 PM