たやは

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もう一つの物語

歩く。歩く。歩かなければならない。こんな乾燥した大地にいつまでもいたら干からびてしまう。足元はサラサラとした砂で、足を一歩出すごとに砂が崩れて足に力を入れることができない。
力の入らない足で進んでも推進力は得られず、多くの距離を稼げないでいた。

砂漠を歩く俺たちに太陽は容赦なく強い熱を注ぎ、喉の渇き、体の渇きを徐々に感じてくる。水筒の水もあと僅かとなり、ますます焦りが湧いてきていた。

水の確保が急務だ。砂漠の中で生き残るためには水は必ず必要となる。GPSでオアシスを探すと2キロ程先に水辺があるのが確認できた。重い足を引きずり砂の上を歩く。1キロ程歩いたところで、行く先に大きな穴が見える。

蟻地獄だ。

ここのアリは人間ほどの大きさで、蟻地獄は全長で5メートル程だ。落ちたらひとたまりもない。
慎重に蟻地獄の際を歩いて行く。ふと見れば、蟻地獄の底にウスバカゲロウの幼虫が顔を出していた。アイツもでかい。人間をもエサとしてしまうほどだ。

こんなところで虫のエサになる気はない。ゆっくり、ゆっくり歩いて行く。
急に強い風が吹き俺たちは風に煽られバランスを崩す。

「お、落ちる。」

ぎゃあ〜。

真っ暗な空間に見覚えのある模様の天井が見えた。また同じ夢を見た。砂漠を歩いて行き、穴に落ちる夢。妙にリアルで暑さや足に当る砂の感じが生々しい。ここ何日も同じ夢を見る。体中に汗をかき、寝苦しさに耐えかねて起き上がる。水を飲みにキッチンに向かうため、部屋の扉を開けると砂漠だった。砂漠の向こうには蟻地獄が見える。また落ちるのか。

1つは現実。
もう一つの物語は夢。

どちらが現実でどちらが夢なのかわからない。どちらも現実でどちらも夢。夢は幻し、うつつと言うが、夢なら早く覚めてくれ。もう繰り返すのは耐えられない。

10/29/2024, 11:18:10 AM