松毬

Open App

依頼者 田中啓介


カランコロン、とドアが開き、細身の男が入ってきた。彼の他に人は居ないようだ。少々辺りを見回していると奥から慌てたように愛想のよさそうな男が出てきた。この萬屋の社長、白羽隼人である。
「すみません、お待たせしました。お電話くださった方ですよね、こちらにお座り下さい。」
人当たりのいい笑顔を浮かべながら細身の男、田中を応接間に招き入れた。
「いえいえ、こちらこそ急な依頼ですみません。それで…本当になんでも受けてくれるんですよね?」
「はい、迷子のペット探しから庭の手入れ、子供のお世話、なんでもお受け致します。」
「それは、その、



人を殺す、という依頼でもですか。」
この言葉を聞いた時、白羽の笑顔が人当たりのいい笑顔からニヒルな笑顔に変わり、
「もちろんですとも。なんでもお受け致します。」
そう放った。


「それでは田中さん、依頼内容は人を殺す、ということですが、具体的にお話を聞いても?」
そう言われ田中は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべながら話し始めた。
「…殺して欲しいのは会社の上司です。僕の会社は所謂ブラック企業というもので、パワハラ、セクハラも当たり前のような会社です。辞めようにも退職届は受理されず、仕事量が増やされるだけ。僕はもう諦めていたんです。そんな時同僚の奴が僕のために立ち上がって上司に反抗したんです。そんな彼の対応が気に食わなかったのか、上司は今まで以上に彼に仕事を回したり、殴る蹴るなどの暴行を行ったりしました。上に伝えても意味がなく、僕が何も出来ないまま彼は過労死してしまいました。…彼を死に追いやったあの上司が許せないんです。なのであいつを殺してください。」

「…わかりました。その依頼お受け致します。それでは手続きの方始めさせて頂きます。こちらの書類に田中さんのお名前、それから殺して欲しい人の名前をお書きください。そして、このことは口外禁止でお願いします。守れなかった場合、あなたの命の保証はできません。」
「ッ、わかりました。」
「.......はい、書類の手続き完了です。依頼が遂行出来次第こちらから連絡致します。本日は出向いて頂きありがとうございます。」
「こちらこそ受けて頂きありがとうございます。それでは、また。」




このお話、某支部の方で閲覧可能です

10/10/2022, 2:25:31 PM