『手放す勇気』
ああ、なんてこと……
こんなことになるくらいなら、どんな手を使ってでもあの子を手元に置くのだった。
周囲の反応も、義両親の心証も、夫の機嫌も一切無視して、私がしっかり教育し手ずから育て上げていれば。
けれど、もう遅い。
重要な賓客を招いての夜会。
可愛かった息子は醜悪な表情で、婚約者の令嬢に激しく言い募っている。
婚約破棄だのなんだのと。一国の王子が。
素早く参列者たち全員に目を走らせる。
私の横にいる夫や、その向こう側にいる賓客にも。
考えるのよ。
今や風前の灯となったあの子の命を繋ぎ、私から息子を奪って愚物に仕立て上げた者たち全てを心胆寒からしめるために。
これまでの私の功績も献身も投げうって、最善の一手を。
神様、初めて貴方に祈ります。
どうか、私に“慈愛の王妃”などという仮面をかなぐり捨て、情け容赦を手放す勇気を。
5/17/2025, 9:42:22 AM