入道雲

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「友情か愛情か選ぶとしたら、お前はどっちを選ぶ」
知り合いの教師がふとそんなことを言った。彼がスケッチブックから顔を上げず、鉛筆を動かし続けるから、空耳か幻聴かと一瞬思ってしまった。
「友情か愛情?」
彼の方をみて聞くと彼は鉛筆で僕を指差し動くなと怒ったみたいな、すこし怖い声を上げた。
「ううん。難しい質問だね。友人か恋人か、どちらかが死ぬと仮定して考えても?」
「ああ」
例えば友人と恋人が同じ崖で自殺を、同時にしようとしているとする。友人の方へ行けば恋人は死に、恋人の方へ行けば友人は死ぬ、どちらも取らなければどちらも死ぬ。
「僕なら友人を選ぶ」
「なぜ?」
「なぜって、友人を助けて、それから、恋人と共に崖から落ちれば良い話じゃないか?」
「それだと友人は罪を背負うことになる」
「ま、それもアリなんじゃない?そうすれば友人は自分のことを一生忘れないだろう?そういう君は、どうなの?」
彼ははんと声をあげ笑った。そして「お前は背負う覚悟あるのか?」と聞く。
「僕の質問にこたえたらどう?」
「俺は____を選ぶ」



僕に背負う覚悟なんてなかったよ、口の中で小さく呟いた。地方にある小さい橋、彼はそこから身を投げた。
彼はあのとき、どちらを選ぶと言っていただろうか、それだけが思い出せなかった。
 少なくとも、僕は友人でも恋人でもなかったみたい。
だって崖から自殺なんて考えなかったから。

7/24/2023, 1:35:32 PM