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刹那…。

刹那主義だと、昨日と同じような内容になってしまうなぁ…。

さて、どうしよう…(´・ω・`)軽いのが良いなぁ

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「あっ…」
研究所の一角にある花壇で花の手入れをしていると、視界の端をヒラヒラと過る影が見えた。

土のついた軍手を払うこと無く、慌てて立ち上がり影を追う。
こちらの気配に気付いたのだろうか、途端にスピードを早めた影は、研究所のエントランスの支柱に隠れて見えなくなってしまった。

刹那の間しか視界に捉えることは出来なかったが、
黒い羽に青い筋──アオスジアゲハだ。

「もう生まれてきたのか」

思わず言葉が漏れる。

冬の間姿を消していた蝶が現れるとは、季節の巡りは早い。
目の前で育つチューリップもそうだが、自然というのは律儀に季節を巡る。
ぼーっと生きて、今日が何曜日なのか忘れてしまう自分とは大違いだ。

神様がいるかは知らないが、この世界の定義を作った存在はとんでもなく真面目なのだろう。
人間に破壊されながらもそれなりに巡るよう作っているのだから、凄いことだ。

穏やかな春風が花壇の花々と白衣を揺らしていく。

今通り抜けた風すらも、この世界は数式で表す事ができる。花壇に咲く花たちや、蝶が現れるタイミングもまた然り。

緻密な計算式でこの世界は巡っている。
まるで精密なプログラムが施された機械のように。
この世界を作った存在は、腕利きのプログラマーといっても過言ではないかもしれない。

では、その中で生きる人はどうなのだろうか。

この世界は、生まれたら必ずこの世を去らなくてはいけない。
過去を振り返っても例外がないということは、これは万物にプログラムされていることなのだろう。
ならば、生死と同じように人生の過程すらも既にプログラムされているのだろうか。
趣味嗜好から、辿る運命まで全てをこの体は知っているのだろうか。

もし、本当にそうだとしたら──少し寂しいと思う。

これから体験することも、感じることも、予め決まっているだなんて、「決められた台本をなぞるだけが人生だ」と言われているみたいで虚しいではないか。

予め組み込まれたプログラムではなく、物事に一喜一憂しながら、時に世界を愛で、時に人生の荒波に揉まれながらも今感じたことを大切に生きる──その方が人らしくて、好ましいと自分は思う。

だからこそ、どんな出会いも人としての喜びの一つになり得る。

「もう少し姿を見たかったな…」

瞬きの間しか邂逅出来なかった先程の蝶のことを思う。

今回は一瞬しか見ることは叶わなかったが、春から秋にかけて、花壇も花盛りになる予定だ。
蝶道が出来ていればまた会える可能性はあるだろう。

この世界から見れば、刹那の命同士だ。
良き隣人としてあれたら嬉しい。

研究所の主は小さく息をつくと、ギョッとして固まった。
白衣が土で汚れている。
太ももから足元にかけて土が付いているところを見ると、原因は軍手だろう。
ちゃんと土を払わなかったのがまずかったらしい。

「あぁ〜、やっちゃった…」

興味が先に勝つと、後先考えないのは自分の悪い癖だ。これも自分にプログラムされていることなのだろうか…。

いやいや、そんなことより、また助手に小言を言われてしまう。

眉をグッと顰めた彼女の姿が脳裏に浮かぶ。

「そんな顔をさせるつもりはないのだけど…。これじゃあ、説得力がないね」

良き隣人への道のりというのは容易くないようだ。

白衣に土を付けた男は一人苦笑を漏らした。

4/28/2024, 11:44:58 AM