この町にある映画館。私が子供の頃からあるその映画館は一日に一人、客が居たらまだ良いほう。一人も客がいない日がほとんど。叔父はその映画館で働いている。映画が好きでたくさんの人に映画を観てもらいたい、そんな願いを込めて営んでいる。最新の映画を上映する訳ではなく、古い映画だけを日々上映している。それでは若者が足を運ぶ理由がない。常連のおじいさんに通う理由を聞いてみたことがある。
「ここはね、昔を思い出させてくれるんだ。子供時代、指をくわえて映画館の前で立ち尽くしていたんだ。悔しかったね、お金もなく自由な時間もなかった。でも今は…好きな時に好きな映画を映画館で観れる。今日まで頑張って生きてきた自分へのご褒美だ。」
その話を聞いて少しだけ寂しい気持ちになった。
胸がギュッとされるような感覚。
叔父にもきっと心の奥底にある本当の理由があるのか。
「お、珍しいな。観ていくのか?」叔父が窓口から顔を覗かせて少しはにかんだ表情をする。
「暇つぶしだよ。」チケットを受取り、ガラガラの客席を見渡す。常連のおじいさんが手招きをしてニコニコしていた。私はおじいさんの隣に座り、スクリーンに映し出されるモノクロの映像を見る。
少しの切なさと悲しさ、どこか愛おしいこの場所は叔父が亡くなり閉館された。
今はあの場所は更地になっている。
目を閉じるとあの時の映画館が脳裏に浮かぶ。
それは哀愁をそそる光景であった。
【哀愁をそそる】
11/4/2023, 1:48:07 PM