あると

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『空が泣く』

 今日も彼は空に花火を上げる。

 痛々しいほどに真っ赤な花火を、何発も、空高く打ち上げる。

 毎日のように、彼は花火を上げる。
 
 成長期もきていない小さな体で、武器庫から大砲を引っ張り出して、自作の花火を……色付きの砲弾を、その中に込める。

「どうして毎日こんなことをするのですか?」

 一度だけ、彼にそう聞いたことがある。
 少し悩んで、彼は俯きながら答えてくれた。

「国民たちの力になりたいんだ。『王族』の一員として」

 これが力のない自分が果たせる、幼い王子としての精一杯の責務なのだと、彼は言った。

「たしかに、花火を見る国民たちはみな、笑顔です」

 私は夜の花火に目を向ける国民たちの表情を思い出す。
 働き疲れた若者も、母に抱かれた赤ん坊も、座ることすらつらそうな老人も、揃って空を見上げていた。とても穏やかな顔で。
 この花火はたしかに、国民たちの心の安らぎになっているだろう。

「でも、なぜ大砲を使うのですか?専用の機械もございますが……」

「『武器』じゃなきゃだめなんだよ」

 彼は静かにそう言った。

「僕はね、この大砲で攻撃して、空に痛がってほしいんだ。そして空に『泣いて』ほしいんだよ。それは、この国にとってはいちばんの救いになる」

 ____この、『砂漠の国』にとっては。

 彼はそれからも、何度も大砲で花火を打ち上げた。

 一昨日、明日、そして今日。
 何度も何度も上げ続けた。痛々しい、赤い花火を。

 何度も砲撃を打ち込み続けて、今日、ようやく……



 ………………空が泣いた。

9/16/2024, 11:27:53 AM