時雨 天

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花咲いて






色とりどりの花が咲き乱れる所に一人眠る少年がいた。
少年の周りには蝶々がひらりひらりとたくさん飛んでいる。
一匹の青い蝶が、少年の頭に止まって羽休めを。そよ風が吹くと、その風に乗るように飛び立つ。
すると、一人の青年が少年に近づいて行く。

「今年も花が咲いて嬉しいのはわかるが、寝るのはやめろよ」

眠る少年を見下ろしながら、声をかける青年だが、起きる気配がない。
青年は髪の毛を乱雑にかくと、どかっと隣に座った。すると、蝶々たちが、歓迎するように青年に群がる。
鬱陶しそうに、青年は手で軽く追い払うが、また元に戻ってくる蝶々たち。何度でも、何度でも。
諦めて、ため息をついていると、いつの間にか少年が目を覚まして起き上がり、笑っていた。

「相変わらず、モテモテですね」

「うっせぇーな、毎度鬱陶しいんだよ」

「いいじゃないですか、好かれるの。人には好かれないのに」

「別にいいんだよ、人に好かれなくても」

ゴロンとその場に寝転がる青年。花が少し揺れ動いた。

「こんなにも優しい人なのに」

「優しくねぇーよ」

「花や蝶たちといつも言っているんですよ?」

クスクスと笑う少年に対し、舌打ちをしてそっぽうをむく青年。
太陽の光が優しく二人を照らしていた。
雲一つない青い空。木々に止まっていた、数羽の鳥が羽ばたいて、飛んでいく。
その様子を二人で見つめていた。

「今年も無事に、あなたに会えてよかった」

へにゃりと笑う少年。そして、青年の頭を撫でた。

「来年もまた会えるでしょうか?」

「毎年同じこと言っているはずだぞ、会えるって」

青年の言葉を聞いて、少し安心した様子の少年。
花が風で揺れ、蝶々は違う花の場所へ飛んでいく。

「……いつも守ってくれて、手入れをしてくれてありがとう」

少年は立ち上がると蝶々たちがいるところへ向かった。

「あんまり遠くに行くなよ」

「わかっていますよー、川の近くまで行ってきます」

ひらひらと手を振った後、鼻歌を歌っている少年。
その歌に乗るように花たちが揺れ動き、蝶々たちは舞う。
青年は上半身だけ起こして、少年の後ろ姿を見つめると笑みをこぼした。

「儚くて美しい命を全うして、また種を生み、芽を出し、美しく咲き誇る。お前に会えるなら、俺は何だってする。また来年、花が咲くように」

7/23/2023, 1:37:23 PM