ほろ

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すっかり寒くなったね。
ずず。鼻を赤くして、隣に並んだ生徒を見下ろす。
「冬だからなぁ」
「だねー」
猫のように伸びをして、彼はニヒ、と歯を見せた。
終業式で短縮授業だから、生徒は皆帰ったものと思っていたが、こいつは違うらしい。帰る生徒を見送る教師の横に、わざわざ並ぶなんて物好きだ。
彼はマフラーに顔を埋め、手を擦る。その指先が鼻と同じで赤くなっている。マフラーにコートという防寒対策をしておいて、何故手だけ無防備なのだろう。
「手、冷たいだろ」
「うん、もう感覚ない」
「手ぶくろは?」
「教室」
じゃあ持ってこい、と送り出そうとしたが、それより先に彼が呟いた。
「先生の手ぶくろ貸して」
「なんで」
「あったかそうだから」
まあ確かに、今の今まで付けていたし、顔に似合わずモコモコの手ぶくろだから暖かいとは思うけど。
あれこれ考えているうちに、彼が手ぶくろを奪っていく。
「へへ、もらうね、せんせ」
「貸すって話じゃなかった?」
そうだっけ。
とぼけた顔で言うものだから、彼の頬を両手で挟んだ。つめたっ、という抗議の声は聞かないフリをして。

12/27/2023, 1:23:04 PM