お題『素足のままで』
(一次創作・いつものやつ。優斗のターン)
熱い砂、白い雲、寄せては返す波しぶき……俺たち高山一高陸上部のメンバーは一泊二日のスケジュールで海辺に来ている。
もっとも、メンバーといってもリレーメンバーとヤマセンだけなのだが。
入部前に中村が言っていた通り、在籍しているけれどどいつもこいつもグラウンドに出てこねえ。
そして最近知ったのだけれど、2年ツーブロ横川はマラソンの、1年のピアス高橋は走り高跳びの選手が本職らしい。それで俺は100メートル走が本職のおかっぱプリン野上とばかり走らされていたと言うわけだ。
それはさておくとして、今回の合宿の目的は【友好を深める】ということらしい。打ち解けていられないといいバトンパスができない——これがヤマセンの言い分。
とはいえ陸上部なので明日は早く起きてから浜辺をランニングすることになっている。
そして到着した今日の夕方はと言うと、バーベキューである。夏は海辺で肉だろ——これもヤマセンの言い分だ。
まあ、そんなわけで俺たちはギャイギャイと騒ぎながら火起こしをしたり串に肉を刺したりしていたが、食べる時はみんな無言で肉にむしゃぶりつく。
ひとしきり腹も膨らんだ頃、中村がとんでもないことを言い出した。
「中山、お前、夏菜子様とどこまで行ってんの?」
飲んでいたコーラが気管に入って、俺は溺れる。
「大丈夫ですか? 中山先輩」
隣に座っている高橋が気遣って背中を摩ってくれた。
「だ、だだ、だいじょばない! おい、中村、おま……!!」
おそらく俺の顔は真っ赤になっているに違いない。カッカしているのはバーベキューの残り火のせいだけではないはずだ。
「夏菜子様……って、こないだヤマセンが差し入れ貰ってきた、すげえキュートな自称中山の姉さんか」
横川が身を乗り出してくる。
「そう。こないだ俺らと夏祭りに行ったんだけどな、中山が他の女子に見惚れていたら夏菜子様はご立腹でさぁ。俺はそこで思ったわけよ。『このふたり、できてんな』って」
すると他の3人が、ヒュー、と声を上げた。
「だから、付き合ってねぇってば!」
俺の反論にヤマセンは、
「不純異性交遊はいかんぞ」
なんてニヤニヤしながら言ってやがる。
「ちょ、みんな聞いてねぇだろ!?」
「いや、だって、あれはどう見てもお前のこと好きだろ?」
中村が畳みかけてきた。
「そうであってくれれば嬉しいけど、でもまだ告ってすらいねぇよ!!」
俺の叫びに、中村がぽかんとする。
「え、うそ?」
「ぅ……ぅそ、じゃ、ねぇ……よ」
ああ、俺は何を言ってるんだ……。
そこで横川が、
「早くはっきりさせろよ」
と言い出す。
「他のやつに取られてもいいのか?」
「……え?」
「だって、ヤマセンの話だとすごく賢そうなかわいいお嬢様なんだろ? そんな人が俺らみたいな阿保にかまけていられるか?」
それを聞いた中村がなぜか顔色を曇らせた。
「な。お前は俺たち高山一高の夢なんだ。その熱い想い、叶えてくれよ」
いつの間にスられたのかは知らないけれど、高橋から俺のスマホを渡された。
「お願いします、中山先輩。さあ、LINEで告白を」
みんなが身を乗り出してきた。
「先輩、俺たちがついてるっス」
野上が合掌している。
みんなの眼差しがこちらに集中して困っているところに、LINEの通知。
見れば、夏菜子からだった。
《優斗、こんばんは。私は元気です。合宿はどうですか?》
「……夏菜子様からか?」
中村の質問に答えられない。
「早く返事をしたほうがいいと思います」
高橋の言うことはもっともかと思うけど、だからといって突然『お前のことがずっと好きでした』と言えるわけでもなく。
《夏菜子、こんばんは。こっちはよくわからないけど盛り上がってる》
その返しを背後から見ていたらしい横川からスパーンと頭をはたかれた。
《ふふっ。楽しそうでよかった。もし撮れたら集合写真が欲しいな。なぁんて》
「ちょ、このお嬢さん、俺たちの集合写真が欲しいってよ!」
一斉に身だしなみを整え始める面々たち。って、なんで妻帯者のヤマセンまでポーズ決めてんの!?
すかさず高橋にスマホを取り上げられ、インカメラを向けられる。全員が押し合いへし合いより集まったところで「はいチー♡」と高橋が音頭を取った。
2、3回シャッター音が響き、スマホを返される。
俺はみんなに見守られながら写真を送った。
《どう? これで満足?》
《うん、満足! それじゃおやすみなさい》
《おう、おやすみ》
こうしてLINEのアプリを閉じた……全員の不満げな視線が刺さる。
「お前、こういうことはササっと早めにしておけよ!?」
中村が食ってかかってきたタイミングで奴のスマホから通知音が聞こえてきた。
「あ、ちょっと待って」
何に待てば良いのか分からないけれど、俺はとりあえず中村が何かを返信し終えるまで待つ。
すると近くにいる横川が、
「あ! コイツも女だ!!」
と声を上げた。
「うそっ! お前の口から女のコトなんて出てきたことねぇぞ!?」
思わず非難の声を上げてしまう。
「うるせえうるせえ! 悔しかったらお前らこそ早く女作れよな!」
中村の言葉に俺を含め部員全員が悔しがる。
悔しいついでに俺たちは靴と靴下を脱ぎ捨て、中村を全員で担ぎ上げた。
「お、お前ら!?」
「先輩。靴を脱がせてあげるのは温情っス」
野上が中村の靴と靴下を脱がせる。
そして素足のまま駆け出し、中村を海へと放り投げた。
ヤマセンは、
「夜の海は危ないから、あんまり遠くへ投げるなよー」
と言いながら、からからと笑っていた。
8/26/2025, 3:11:52 PM