雨が絶え間なく降ってくる季節がやってきた。
じめじめとした空気を全身で感じながら、僕はお気に入りの場所――あじさいの葉の上に身を寄せる。
ほのかに甘い香りを漂わせるあじさいの香りを嗅ぎながら、僕はぼんやりと空を見上げた。
すると僕の隣にやって来た子供のアマガエルが、喉を鳴らしながら「よぉ」と声をかけてきた。
「おいっす。今日もご機嫌だね、カエルくん」
「まぁね。カタツムリくんは、相変わらずボンヤリしてるようで」
僕らは黙って灰色の空を見上げた。
どれほど見上げ続けていたのか――気がつくと、土砂降りの雨が降ってきた。カエルは嬉しそうに声を上げて鳴いている。
そういや僕が昔、カタツムリに転生する前――人間だった頃は、大雨の日にわざと外に出て濡れる遊びをしたなぁ……と思いにふける。
しかし、僕はなぜ人間だった時、死んだのだったっけ。よく覚えていない。ただ、首をきつく締められたような……人間の手が食い込む感覚は覚えている。
「カタツムリ。お前、またボンヤリしてる。まっ、ボンヤリするのも大事だけどな。俺もボンヤリする時があるし」
ふぅん、と返すと、カエルくんは丸々とした目を細めた。
「変な夢……というか、残像が頭の中に浮かぶのさ。俺が人間になっていて、とある男を追い詰めて首を絞めるのさ」
「何それ、怖い」
「なっ。怖いよな」
再び僕らは空を見上げる。
後に判明する僕らの関係。
転生した、殺人者と被害者。そして彼が並々ならぬ執着心を抱いて、僕を骨の髄まで愛していることを。
6/13/2023, 11:54:43 PM