地下に降りると、かび臭さと湿気が一気に充満した。折りたたみ式の弓が岩や梯子に引っかかるので脱ぎ捨てるように手放す。
冷たくて暗い洞穴。敷いた布も薄く、人間が住まうような場所じゃない。まるで獣の巣だ。
「おい、ここに居るのか」
声は闇に吸い込まれ、跳ね返ることはない。広く抜ける洞窟であるのには違いないのに。
だいぶ経ってから彼の耳に布擦れの音が届いた。彼は生来目がいい。動くものを見つけるのは得意だった。
「おい!」
意外にも近くに居た。彼女を抱き上げるとどろりとした液体が手につく。
いったい何日間…!?
抱き上げた冷たい体がとつぜんこわばった。青年は彼女が生きていることに安堵する。
「に、兄さん…?」
娘の声は小さく掠れている。ランプの明かりをつけて周りを見ると、周囲はひどい状態だった。奥で動かないものもいる。人とは思えなかったが脳が勝手に理解していく。
「お前が生きててよかった」
「ん…」
娘の服は破れ、ほぼ裸に近い状態だった。下半身からの血がおびただしく、体のあちこちの痣は腫れ上がり、場所によっては青く変色している。それは尋常じゃない乱暴の後だと気付いた。青年の背中には冷たい汗が落ちていく。
娘の声がした。
「みんな、無事に、逃げた?」
「ああ!みんな元気だ」
「よかった…」
咄嗟についた嘘。もう動かない仲間たち。
荷物を置いて、ランプだけ携帯し軽い体を抱き上げた。来た道を戻る。妹は生きていた。ただ、どうしょうもない後悔が追いかけてくる。もう取り返しがつかない…。
12/30/2025, 1:25:17 AM