300字小説
秋の光に
秋のやわらかな光が窓辺から差し込むと、島は実りを迎える。畑に森に私も島人と共に収穫に勤しむ。
「若様、お精が出ますね」
私の世話役の娘が昼餉を持ってくる。
「ああ」
都では兄に跡継ぎの王子が出来たと風の噂に聞いた。
「はい、どうぞ召し上がれ」
「これは美味そうだ」
このまま、この娘と島で暮らすのも悪くない。私は焼き立てのパンを頬張った。
秋のやわらかな光が窓辺から差し込むと思い出す。
冤罪を着せられ流され、島で暮らしていた『若様』を。
島の暮らしが板についた頃、兄上の御子が早世したとかで『若様』は迎えに来た者と都に戻った。
『帰ってきたら結婚を申し込みたい』
そう笑んで帰らなかった人。天を仰ぎ、老婆は目を細めた。
お題「やわらかな光」
10/16/2023, 11:30:22 AM