駒月

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 落ちていく。

 手を離したから、落ちていく。
 深い闇へ落ちていく──

 あのまま駆け落ちでも何でもして、二人で逃げればよかったのに。逃げたのは俺一人だけだった。
 彼女の胸に突き立てた短刀からじわじわと闇が広がって、体が蝕まれるようだ……

「許さない」

 そう、責め立てる声が聞こえた。

「嘘つき」

 彼女の泣き顔が脳に焼きついて消えない。
 その綺麗な瞳に魅入られて、初めて欲しいと思った人を。まさか己の手で命を散らしてしまう日が来るなんて。

 俺の行き先は地獄だろう。もう二度とあの柔らかい日々へ戻れはしない。
 春を失って季節は終わりを告げた。吹き荒ぶ風は彼女の泣き声すら消して。

 桜の花びらが舞う中、搔き抱いた冷たい春を美しいと思った……あの感情を何と呼ぶのか、俺は今もわからずに落ちていく──


【落ちていく】

11/23/2023, 11:09:01 AM