ㅤデイルームを通りかかったら、夢野さんは息子さんと楽しげに談笑していた。
ㅤこのところ落ち込んでいたみたいだから、元気そうな顔が見られてこちらの表情もゆるむ。ご家族の存在って、やっぱり偉大だな。
ㅤなんて考えていたら目が合った。夢野さんが手招きする。
「そろそろお部屋に戻りますか?」
ㅤまだふらつきがあるのかもしれない。車椅子が必要ならスタッフさんに断って取ってこようかと思ったら、夢野さんは笑って首を振る。
「良ければ一緒にお話しましょうよ。あのね、とても面白いのよ、こちらの……」
ㅤ夢野さんは、向かいに座る息子さんをにこやかに見つめた。私の正面に座っていた息子さんの顔が、心の奥に逆さまに焼き付く——いまも。
「あなた、誰かしら?」
ㅤ深い川の流れる音がした。
『誰かしら?』
3/2/2025, 1:28:34 PM