行事ごとに見向きもしなくなったのはいつからだろうか。
1DKの狭いマンションで、一段だけ、たった二体だけの人形を並べておままごとのようなことをしていたことは、薄ぼんやりとしている幼少期の記憶の中でも鮮明に思い描くことが出来る。
クラスメイトのものより小さなそれが少し不満で、それでも行事の度、箪笥の奥から子供にとっては大きなダンボールを引っ張り出してくれる母に、形容しがたいむず痒さを抱いていた。
忙しい日々の中で、いつからか見向きもしなくなったそのダンボール。十年以上の月日が経って久方ぶりに取り出されたそれは、埃を被ってなお色褪せない存在感を放っていた。
この子にもいつか「いらない」なんて言われる日が来るのだろうか。古臭い行事と人形だと呆れられるのかもしれない。自身のことを回想してみれば、わけも分からず飾っていた当時より、大人になった今の方がこの行事を心待ちにしているように思う。かつての母も、こんな気持ちだったのだろうか。
与えられた愛を受け継ぐように。彼女が大人になった時、この人形をささやかな思い出の品として慈しめる日が来ることを願って、そっと真新しいベビーベッドのそばに飾った。
『ひなまつり』
3/3/2024, 11:13:49 PM