テツオ

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雨はすきだ。

コンクリートがめらめら光る瞬間と、なにげなく生えた草や茎すべての、世界の色彩がひとつ沈むのがすきだ。
家と家の間に存在する、ちいさな隙間のなかが、美しく暗くなり、置かれた赤い自転車が映える、何気ない景色が雨によって彩られるのがすきだ。

いちどは、傘をささずに外へ出て、
「インクレディブル・ハルク」みたいに、ドラマチックに雨へぬれたい。
裸足で外を歩いて、ぬれたコンクリートを足の裏でかんじ、もうただでさえぬれぞうきんのようになったシャツとズボン。今さら汚れたって気にしない、そんなふうにコンクリートへ寝転んで、ゴロゴロ転げ回りたい。

ビニールハウスの天井を、すべるだろうな、アスレチックみたいにのぼって、登りきったらきっと、くにゃっと、意外とあっけなく、自分の足はビニールハウスの天井をしずませるんだろう。
それでもひるまず、全身を投げ出すと、さらにぐにゃっとしずんで、あげく破れる。
体を空中に投げ出されて、クルッと一回転などして、背中を地面へ打ち付けるが、その土は畑をするためにひどく柔らかく、しかし臭いのだ。

雨に濡れながら、ビニールハウスとビニールハウスの間を、サンダルで走り(サンダルはきっとぬれているので、走る度足の裏とサンダルとがこすれ、キュッキュッと鳴るはずだ)、たびたびは苔に滑って転び、どしゃぐちゃにしたシャツの重みをひっぱりながら子供みたいにはしゃいで走るのだ。

突拍子もない願望で、なにかどこか、プライドの高さと意識の高さを感じる。好きな子をいじめてしまう子供のような、天邪鬼さを感じるが、しかし、雨がもたらす景色がすきだ。

すべて叶う願望だ。
しかしめんどうなので、叶えはしない。

処理のことは、やってから考える、という子供であれば、自分はもう少したのしめたかもしれない、と、ちいさく落胆するが、車窓から眺める雨の風景にもまんぞくげな、やはり子供っぽい自分もいる。

傘をうつ雨はもうずっと止まらないし、これから先もとまらなければどうなるのか、想像できなくもなかったが、処理の方法を考えてもどうしようもないことが世の中にはあって、諦めて、やめて、ただ現状を受け入れる生き方をするしかなくなる瞬間がある

5/25/2024, 4:16:58 PM