まっしろ

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「もう一度、やらないんですか。スノボ」

 ジムの倉庫の整理中、それを手伝ってくれているアオイから発せられた一言。急になんなんだ? と思ったがアオイの目の前にはぼくが昔使っていたスノーボードが鎮座してあったのに気付く。そういえば、アオイには掻い摘んでしか話した事がなかった、と今更気付く。
「もうやらないよ。まあたまに足の調子のいい時があればやるかもだけど」
 それもこの山だけだけどね、と付け足すと不足そうな顔。
「どうしてですか? ほら、ブルーベリー学園の、ポーラエリア! あそこでも出来ますよ」
 念押ししてやらせようとしてくるアオイに苦笑い。スノーボーダーの夢を潰えてからあえて見ないようにしていた。向きあうと成し得なかった夢の残骸が突き刺さって動けなくなるから。全てはぼく自信の弱さ。
「わたし、何だかんだで見た事ないんですよね。グルーシャさんが滑ってるところ」
 ボードに触れながらアオイは淋しそうにそう語る。その姿に一瞬息を飲む。
「……昔の動画とか、探せばいくらでもあるだろ」
「いや。それはそうなんですけど」
 煮え切らない態度、言いたい事があるならはっきり言えば良いのに、と少し語気を強めてそれを伝える。
「何? はっきり言えば」
「その、グルーシャさんの知らない所で、勝手に昔を探るのは良くないなって……。でも、グルーシャさんが空を舞う姿は一度見てみたいと……。古傷に触れてしまったらすみません」
「……」
 そう言って頭を下げるアオイに言葉を無くす。そんなの、気にしなければ良いのに。けれどそうぼくを気遣ってくれるアオイの優しさが心に染み渡る。
「……翼を無くしたから、昔のようにもう舞えないけど、」
「え」
 ボードに近付き、今度はぼくがそれに触れる。何よりも大事だったぼくの宝物。今も色褪せていないのに忘れようとしていたぼくの弱さ。
「あんたが……応援してくれるなら、また頑張れるかも」
「も……! もちろんです! 何ならわたしが一番のファンになって熱苦しいくらいの応援をします! 絶対!」
 あまりにも熱く強い瞳でそれを告げるものだから。思わずもう一度空を舞える気がしてつられて笑う。

 夢に溢れたあんたを見ると、無くした翼の代わりをもう一度見つけられそうな気がするんだ。新しい夢と破れた代わりの希望を。だから、もう一度。


「最近全然滑れていないから、上手く出来ないかもだけど、見る?」
「……! はい!」

pkmn sv 飛べない翼


11/12/2024, 8:33:26 AM