白玉がやってくる季節が到来した。
今年は3、4個ほどでふよふよと街のいたるところをさ迷っている。すると1個だけ街を出ていく白玉を発見した。白玉の来た道を逆に辿ると家に着いた。行ってきますと大きな荷物を背負った姉が出てくる
お姉ちゃん、今年なの?
うん 今すぐ追いかけなくちゃ じゃあね
ポンと頭に手を置かれ、姉は期待に満ちた表情で今しがた出ていった1個の白玉の跡を辿って行った。
お姉ちゃんもう戻ってこないのと私が母に抱きつくと、お姉ちゃんは大人になったのと私の頭を撫でる
絶えることなくそこへ向かう途上にありながら、いつも繰り返しそこへ通じる道を見いだせないでいる
ここでは見られない世界をあなたももうすぐ見ることになるわ
母の胸に顔をうづめながら母のくもった声を聞いた
数年経って私も旅立つ時が来た。登山用の縦長リュックを背負って母に挨拶する。
玄関を開けると昼の明るさに目を細めて、足元にある一筋の白い道を遠くまで見通した。
今は単に私があちこちさ迷っているだけでなく、私の中身があちこちさ迷っている。
確然とそびえる不安はあるが、それよりも大きな何かが浮き足立つ私の足を先へ先へと駆り立てようとしていた。
姉もこんな気持ちだったのだろうか。
暗闇を取り隠すほどの太陽の威力を前に、私は一歩踏み出した。
.遠くの街へ
2/29/2024, 9:29:18 AM