Ryu

Open App

夕方、妻がパートから帰ってきて、しばらくするとキッチンから漂ってくるトウモロコシの匂い。
何だかワクワクする。
夏の風物詩じゃないだろうか、トウモロコシ。
美味いしね、あれ。
トウモロコシ嫌いな人なんていないんじゃないか?って思ってたら、自分の娘がトウモロコシ苦手な人だった。
まあ、おかげで彼女の分も私がいただく。

茹で上がり、テーブルに置かれ、漂う夏の匂い。
夏祭りの夜を思い出す、と言いたいところだが、屋台のトウモロコシは、茹でるより焼く方がメジャーだよな。
焼きトウモロコシ。あれもまた美味い。
でも、久しく夏祭りなんて行ってないな。
あの雰囲気は好きなんだけど、いかんせん最近の夏は暑すぎて。
行ったとしても、かき氷食べて終わっちゃいそう。
まあそれも、夏の風物詩だったりするが。

その季節季節に合うものがある。
特に食材や料理には旬ってものがあるから、必然的に一番合う季節が限定される。
夏なら、トウモロコシ、かき氷、スイカ、そうめん、冷やし中華、等々。
まあ、一年中食べたいものだらけだが。
でも、夏の匂い。
これを感じるための旬ってやつだろう。

幼い頃の夏特有の空気感、好きだったな。
故郷は雷の多い地域で、夕立ちとともに遠く雷鳴を聞いていた、実家の縁側。
世界に自分一人になったような空想を働かせて、静かに暗雲立ち込める空を見ていた。
何か、恐ろしいモノが迫りくる雰囲気。
だけど、安全な場所に守られている感覚。
少年時代の夏休み。

…そんな情緒はどこ行った?
縁側にはエアコンの風が行き届かなくて、長時間はいられない。
夕立ちというよりゲリラ豪雨。
情緒が…いや、自分が年を取ったということか。
なんせ、五十何度目かの夏。
もう、夏の匂いを嗅ぎすぎて、鼻が麻痺してるんだ。
今の私をあの頃に引き戻してくれるのは、夕刻のトウモロコシの匂いくらいのもんだしな。

7/2/2025, 3:08:22 AM