「どこにあったん、そんなもん」
「おかんのクローゼットの奥。喪服探しよったら見つけてん」
「え、あんた、ほんまに喪服探したん?」
「だって、お姉ちゃんが言うたんやんか」
ㅤ本人の喪服を探すと、死神が萎えて仕事をしなくなる。どこかの国のジンクスだと言ったのは姉だった。病名や治療法はアホほど見尽くして、近頃私たちが検索するのは、気休めみたいな単語ばかりになっている。
ㅤ眠り続けるおかんの足元に並んだ黄ばんだ封筒を眺めて、「隠されたラブレターねえ」と姉はため息をついた。
「中身は?ㅤ読んだの?」
「まさか」
ㅤ母の字でしたためられた、『様』付きの父の名前を私は睨む。
「ここで読んだろか。音読したるわ。恥ず過ぎて、三途の川から走ってくるんちゃう?」
ㅤ本気半分冗談半分で封筒に伸ばした手を、姉にぺしりとはたかれた。
「やめなって」
ㅤ病室が、今日も夕べの音楽に包まれる。『気をつけておうちへ帰りましょう』という防災無線の音声。
「おうち帰る時間やって」
ㅤ管に繋がれた、浮腫んだ手にそっと触れる。
ㅤせっかく隠した手紙やろ。勝手に読まれた無かったら、早よ帰ってきぃや。
『隠された手紙』
2/2/2025, 10:31:13 AM