渚雅

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好きになれなかった。

本来は温かくて思い遣りや感謝に充ちた言葉だろうに。何故だか、溺れるような心地がした。フワフワなんかではない。もっと重くて粘着質でまとわりつく桎梏に思えて仕方なかった。


ありがとう──だから、これからもよろしくね。
ありがとう──面倒事引き受けてくれて。
ありがとう──いい子ちゃんぶっちゃって。

後ろに続く振動しない音が雄弁に伝えてくるマイナスの感情。便利なお人形だと、彼等はそう呼んでくる。心なんてない使われるだけの道具だと。

……形だけの、体裁だけ整えた、意味などない定型。


『ありがとう』

まるで呪いだ。

2/15/2025, 5:42:07 AM