「はじめまして、⚪︎⚪︎⚪︎でございます」
少し歳の離れた一見客に合わせてなるたけ慇懃な挨拶をすると、返ってきたのは異国のアクセントがする日本語だった。
「⚪︎⚪︎⚪︎というのは本名ですか? 変わったお名前ですね」
「違うんです、ココいらではこの名前でやっておりますの」
「そうなんですか、面白いですね。じゃあ僕にも名前をつけてください」
少しばかし御客の顔と服装を見比べて、咄嗟につけた名前に、異国の御客は驚いた顔をする。
「それは僕の母親の名前に似ています」
そのあとは御客の故国での話をいくらか訊いて、帰りの上着を渡しながら今度は私から。
「私の名前をつけてください。あなた様の国の言葉で私に名前をつけてください」
名前なんてべつに好きに呼べばいいじゃない。
なんて呼んだら良いか困っているヒトのためにとりあえず名乗っているだけだから。
けれど名前をつけたのならね、今日から私はあなたの子だからね、また会いに来てよ。
名付けてもらった御客の今は亡き友の名前に、溢れる気持ちが止まらなかった。
お題:溢れる気持ち
2/5/2024, 11:02:51 AM