霧雨

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【子供のままで】
それは私が中学生の頃でした。
新しい環境でストレスがかかったのか、難しい年頃の子供たちが集まっていたため、学校全体の雰囲気が良くなかったせいか、私は自分が落ち着いていられる居場所を探していました。
しかし、どこを探しても、私には居場所がないように感じられました。
それは学校のみではなく、家にいる時も、出かけ先でもそうでした。
今考えても、あの頃心が苦しかったわけや、窮屈な世界からどうしたら逃げ出せたのかも分かりません。
わけが分からないまま、私の心は日に日に追い詰められていきました。
そんな時に、私の心の中に、ある「イメージ」が浮かびました。
それは、真っ白な空間の中に、私が一人きりで立っているという景色でした。
以前までは、心の中に「イメージ」が現れたことはなかったので、初めての経験で戸惑うばかりです。
イメージは、私の居場所でした。
たとえ実態がなくとも、それは確かに存在するものなのです。
居場所のない私のために創られた世界───直感的にそう感じました。
しかし、私は全然嬉しくありませんでした。
イメージが濃くなるにつれて、私の現実での思考は靄がかかったように、曖昧になっていったのです。
イメージは私を救ってはくれません。
いわば、その場しのぎの気休めに過ぎないのです。
真っ白の世界の中で、たった一人で彷徨うのは、本当に心細く、辛いものでした。
歩いても、歩いても、歩いても、何もありません。
イメージの中の私は、白い簡素なワンピースを着ていて、足は何も履いてませんでした。
足の裏に、冷たい、ツルツルした地面の感覚が今でも残っています。
歩き疲れて、私はある時、倒れ伏せました。
ぼんやりと、果てのない地平線を眺めながら、私はここに来る前のことを思い出していました。
私は、こんな虚構の世界の中に生きていなかった。
輪郭のはっきりとした、あの美しい現実の世界で生きていました。
それなのに、突然独りだけこんな惨めな世界に放り出されてしまった。
それが苦しくて、悔しくてなりませんでした。
こんなことになるくらいなら、時を戻して、幼少時代に戻りたい。
中途半端に大人になるくらいなら、ずっと子供のままが良かったのに。
そう思いました。
そして、その思いが、酷く誤った考え方だと瞬時に気づくと、私の目から涙がこぼれだしました。
ずっと子供のままではいられない。いてはいけない。
たとえどんなに苦しくても、寂しくても、心細くても、辛くても、歯痒くても、私はもう二度と戻ってはいけない。
今はただ、この白い世界を、泣きながらでもひたすらに歩き続けるしかない。
逃れようのない、残酷な定めを、私は受け入れる以外ありませんでした。

5/12/2024, 2:44:23 PM