織川ゑトウ

Open App

『孤独の視界は誰が為に見える』

冬も終わりかけ、暖色が目の前をほのかに彩る。
私はこの季節になると写真を撮りに外へ出かける。
一軒家の庭、一ヶ月程前に近所の子供が作った雪だるまは溶けて、
赤の帽子とオレンジのマフラーだけがカランと残っている。
歩道橋の側、ひっそりと雪に隠れていた梅の芽は、乙女の頬を表す色で咲いている。
繁華街、バレンタインも近くなってきて、愛を象徴する深紅が目立つ。

ふらりと自然に足を運べば、時期が過ぎ、あっけらかんとした神社の鳥居が目の前に。
折角だからとお参りし、パンパンっと手を叩けば、音が神社内に響き、
世界の広さを実感する。誰一人居ない、私だけの空間。

もうすぐ夕暮れだと振り向けば、なんとも言い難い幻想的な夕日が目を震わせる。
少しくすぐったい様な。見守ってくれている様な夕日。
直視するには眩しくて、見ない上では勿体ない。

あぁ、勿体ないなぁ。

今だけ限定のこの夕日、知らない誰かも一緒に見てくれているのだろうか。

そんなことを密かに思いながら、今日もカメラのシャッターを切る。

声にならない声で、誰かの名前を呼びながら。

__いい写真が撮れたよ。


お題『伝えたい』

2/12/2024, 2:17:50 PM