「書き初めだる〜……」
横で嘆く友人をしらけた目で見ながら、黙々と墨を磨る。とぷん、と硯に墨が溜まる頃には、飽きた友人がゲームを始めていた。
「……おい。人に墨磨らせといてゲームとは、良いご身分だな?」
「うおっ……びっ……くりしたぁ……ごめんって!ほ、ほら!さっさと課題終わらそうぜ!」
先生の気まぐれで出された、書き初めの課題。お題は、今年の抱負。抱負なんて現代を生きる俺たちはそうそう考えないし上、まず書き初めも面倒だ。さっさと墨汁を使えばよかったのに、なんてわざわざ墨と硯を持たせてきた母を恨めしく思いつつ、友人に腕を引かれて新聞紙を敷いたリビングに座った。
「マジ床汚すと母さんに殺されるからお前ら絶っ対汚すなよ?」
リビングを提供している彼が、厳重に、何層も新聞紙を重ねながら俺に釘を刺してきた。
「……汚さねぇよ。お前じゃあるまいし。」
「今俺のことバカにしなかった?」
ことりと二人の中心に墨でいっぱいの硯を置き、二人並んで半切の紙に向き合う。何を書くか、俺はもう決まっていた。
しばらく、墨の香りと筆が紙に触れる音だけが響く。友人はもう書き終わったようで、筆を洗いに行っていた。
「お、お前も終わった?じゃあじゃあ、何書いたか見せ合いっこしようぜ!」
小さく頷き、立ち上がる。しばらく正座のままだった足は、少し痺れていてくすぐったかった。
「お前のは……健康第一……爺ちゃんかよ!」
ゲラゲラと笑ってくる友人にむっとしつつ、彼の紙を見下ろす。でかでかと書かれた四字熟語は、「一攫千金」。
「……なんでこんな難しい字にしたんだよ……」
「え?だってお金欲しいし!」
彼らしい、自信に満ちた大きな字。習字としては綺麗な字だとは言えないが、迷いのない線や字の大きさが、なんとなく真っ直ぐな彼の字らしいな、と思わせた。
「つかお前字綺麗すぎね?普段俺より汚いのに。」
「……普段は崩して書いてるだけだし……」
いつも通りの軽口。こんな日々が続けたくて、あんな老人じみた抱負を描いたのを目の前の屈託のない笑顔に言うのは、なんだか癪なので黙っておくことにした。
テーマ:今年の抱負
1/3/2026, 6:24:02 AM