彼とわたしと

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“時間よ止まれ”

 前の試験期間中、教室で友人と勉強をしていた。そろそろ帰ることになり教室を出ると、なんと大好きな彼が、そこに通りかかったのだ。

 友人は通りかかった先生に「古典わからないんだけど、教えてくれない?!」と話しかけた。そんな急なお願いに、先生はなんと、「良いですよ、今からやりましょう」と言ったのだった。

 試験内容の解説を一通り受け、ひと段落すると友人が唐突に「トイレ行ってくる!」と言った。教室には先生と私の、2人だけ。この絶好のチャンスを逃してはいけないと思い「先生はどんな文章が好きですか?」という無難な質問をした。「人のドロドロした考えが綴られていると、好きです。」優しい声でそう答えてくれる。すきだなぁと思いながら「良いですね、素敵です」と呟いた。すると彼は私に「〇〇さんはどんな作品が好きですか?」と問うてくれた。私の、苗字を覚えていてくれたことが嬉しくて仕方なくて、具体的な内容が出てこず、「そうですね…[ここで何を伝えたいかと言うと]という文章がある作品が好きです。」と答えた。これは事実だ。読みやすいし、無駄な考察をせずに済む。「笑 おもしろいですね」

 みなさんには、この状況の美しさをお分かり頂けるだろうか。彼が私に質問をして、私の言葉に彼が笑ってくれる。好きだとは直接言葉に出せない、いや、言葉にしてしまっては迷惑で伝えられないまま、けれど彼とは作品という軸を通して繋がっていたいという、私の溢れ出る愛情と我儘が。私がここで何を伝えたかったかというと、互いの質問と彼の微笑みが続く時間が、私は愛おしくて仕方なくて、“時間よ止まれ”、ずっと続いていておくれ、と願っていたということだ。

9/19/2024, 11:55:02 AM