牧原 牧夫

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昼間の熱をたっぷりと吸い込んだアスファルトはとっくに日が落ちたにも関わらずまだ熱を発し続けて靴の裏をつたう。

子が寝ついて可愛い伴侶もその隣の部屋にこもってしまったことを確認して、俺は1人家を出た。

なに、ただの散歩だ。
地面が熱を発するのと同じく俺も昼間のうだる様な熱を外に吐き出すのだ。


夜道をあてもなく歩いていくと俺の背丈より少し高い低木がしげり始める。夏の虫に加えて近くに水場があるのかカエルらがぎゃあぎゃあと騒いでいる。

ぶわりと大風が吹けばこんどは低木がガサガサと音を立てる。


もうそろそろ家からは十分距離が離れたことを確認して俺は天を仰いだ。

今日は曇り。雲が空を覆ってしまっていた。
深呼吸をして 空に浮かぶとそれまで体重を支えていた足が自由になる。
全身で風邪を受けながら丁度雲と地表の中間まで浮かんだところで今度は地面と平行に飛ぶ。

今日は曇りだしこの時間にそうそう空を拝んでいる人間はいないだろう。仮に居たとしても黒い色の服を着ているから願わくは見つけられずにいて欲しい。

地面に背を向けて飛び続けているうちに雲の切れ目を見つけて、今度はそこへめがけて方向を変える。

ずっと昔、空を飛ぶことを学び飛び始めてから学んだ。ひとつはなるべく雲の近くを飛ばないこと。
敵襲は感知できるが小さな生き物や無機物は感知が遅れて衝突する可能性がある。
向こうもひとたまりもないだろうが、お互いの速度によってはこっちも危ない。視覚と感覚のふたつで警戒すべきだ。
だからもちろん雲の中なぞ論外である。敵の目眩しに使えなくなないがリスクはある。
先日息子がカッコつけか何か知らないが雲の中から登場した時には強めに叱った。
息子がぶすくれていたせいで必要以上に叱った気がしなくも無いがこれも子育てだ。

話が脱線したが、雲の切れ間を狙ってようやっと雲の上までたどり着いた。
見事なまでの分厚い雲で、突破にわすがながら時間を要しただけあって見事な雲海が広がっていた。
雲が月明かりを反射させ、辺り一面が眩く光り輝いている。
大きく息を吸いこめば月光の香りがするようだった。

水面のように均一な雲海を眺めて意識を集中する。
見える範囲内には何もいない。
ふっと胸を撫で下ろして、とんだ。
地に背を向けて天を仰ぐと月明かりを全身に浴びられる。

7/5/2023, 11:21:58 AM