【cloudy】
くもった水の中で懸命に息をしながら、彼は泳ぐ。
キッと周りを見ると、あいつは弁当なんぞ食っている。あいつは貝のようにふたをして寝ている。澱んだ流れに気づかずいい気なもんだ、陰気なやつらめ。
そんな彼を見ていて、私は思いついた。
私はそれをよく見えるように整えて、順序立てて、彼の言語に翻訳して返してみた。彼は顔を上げてそれを見つめ、いつしか親鳥にすがる雛のように後を追ってきた。会話を通じてこの汚れた水にむきあい、そのうち自分で作り上げた完璧なこの物語がおしえていることに気づく。この汚れた水から飛び立つ時がきたのだと。彼は濁った水面をさらに波立たせて、意気揚々と、空へと飛び立っていった。彼の後ろ姿は明るい光に照らされ、逆光で私たちからは表情は見えなかった。ここじゃないどこか、彼が自分に相応しい場所を探す旅に出たことを私は喜んだ。
彼の呼気で濁っていた水は、いまは美しく透き通り、穏やかに流れた。彼を惜しむ者はいなかった。私は光を通して豊かになった水の中で深く呼吸をする。
時折彼から届く手紙に目を通してから小さくちぎり、よく噛んで飲みこむ。そろそろ私が親鳥ではないと気づいてもいい頃だろうか。
9/23/2025, 1:25:05 AM