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信じてもらえないだろうし、誰かに話したこともなかったんだけど聞いてもらえるかしら。
アタシの実家にはアンティークのドレッサーがあるの。大きな三面鏡が特徴的で童話のプリンセスが使っていそうな可愛らしい見た目のドレッサー。父が幼い頃から家にあったそうで、気に入ったから持ってきたんですって。父にそっくりなアタシも物心ついた時からすっかりお気に入りになっていて、そこでメイクの練習をたくさんしたわ。
あの日もそうだった。一通り顔に色をのせて最後にリップを塗ろうと手に取ったとき、鏡には知らない男が映っていた。鏡の向こう側に居たと言ったほうが正しいかしら。本当に驚いたときは言葉が出ないのだと身をもって知ったわ。ソイツも目を丸くしていたけれど、すぐに破顔して「会いたかった」と言ったの。ええ、もちろん知らない男よ。「あなたは誰?」アタシが尋ねると彼は嬉しそうに「キミだけを映す真実の鏡だ」と答えた。

⋯⋯ああ、ごめんなさい。アタシそろそろ行かなくちゃ。え?続きが気になる?こんな話に興味を持ってくれて嬉しいわ。そう、それじゃあ、またこの場所で会えたら、ね。

2/19/2025, 1:08:44 PM