この式、因数分解できない。
そう思って顔を上げて外を見る。
できない系のやつか?でもできないと(2)に進めないよな?
そうして、ヒントを探しに昨日書いた授業のノートをめがけて立ち上がり、リュックの方に行く。
あれ、ない、マジか、学校置いて来たかも、
「はぁぁ」
ため息をついて昼過ぎは日差しが少ない北側にあるシングルベッドに飛び込む。
明るい部屋だ、一ヶ月前に父親と妹で引っ越して来てこの広い部屋に俺は真っ先に飛びつき、自分の部屋にした。
嬉しかった、こんなに開放感のある場所があったなんて、前のあの暗い部屋は息が詰まる。
家の目の前には国道1号線を挟んで相模湾が広がっていて、この部屋は2階の角部屋で海が見える大きな窓が南と西についていて上には天窓までついていて外といつでも繋がっている。
築10年ほどで駅にも近いのに家賃が安かったと父さんは言っていた。
だいたい10畳くらいかな?こんな部屋を一度経験してしまったら今度引っ越すときはどんなに名残惜しい別れになるだろう。
てか学校にノート忘れたのなかなかダルいなぁ
ノートに書いて出す課題もあるのに、どうしよ、
学校は自転車で10分そこらで行けるし、さっさと取りに行くかと思い、ベッドを出て、通学に使ってる黒いリュックを担いで部屋のドアを開けようとしたところ、視界の右隅に人影が見えて、山吹色のカーテンに隠れながら、南側の窓の方を見る。
「なんだぁ?あの人」
門口に身なりのいい、綺麗な白いワイシャツと紺のチノパンを着た男性がキョロキョロしながら佇んでいた。
見たことない人だ、父さん関係かな?そんな人来たことないけど、前の家でも。
一抹の怖さを感じながら部屋から出て、階段を降り、玄関を開き、心がけて毅然とした態度で声を掛けた。
「こんにちは、どちら様ですか?」
身なりのいい男性は40歳くらいで50近くの父親よりも随分若く見えた。彼はこちらに気づくと、微妙な笑顔を作り、何かをチノパンのポケットにしまい、トコトコ、玄関に近づいて来た。
「こんにちはぁ、君が新しい住人さん?」
「ぁあぁ、はい、この前引っ越して来ました。」
気弱そうな雰囲気からは少し意外なフレンドリーさの感じる話し方に少々驚きつつ、冷静を装って答える。
「あぁ、そうなんだ。急にお邪魔してごめんね?僕はこういう者です。」
そう言って彼は名刺を差し出してきた。名刺には長谷川尚人と書いてあり、会社は全く知らないとこだった。
「何のご用ですか?」
なんだか怪しいので少しぶっきらぼうに聞いてみる。
「いやいやごめんごめん、昔、ここに友達が住んでてさ?
まぁでも君には関係なかったよね?急にすみません。」
彼は手を顔の前で合わせて悪びれる素振りした後、何かを探すような真剣な顔で俺の部屋の方を見上げた。
「そろそろいいですか?僕、これから用事があって。」
「え、あぁ!ごめんごめん、すぐ帰るね」
そう言って彼は門口の方に小走りで向かう。
しかし、途中で止まり、こちらを振り返ると、なにかつっかえていたものを吐き出すように、
「あの2階の角部屋、あの部屋に何か置いてなかった?」
「え?」
心配そうな声と顔に虚をつかれつつ、引っ越したときのことを思い出すが何も浮かばない。
「いや、何もなかったすよ?」
そう言うと彼はまた微妙な笑顔を作り、
「ありがとう、それならいいんだ。」
と言い残し、門口を出て、海岸の方へ歩いて行った。
「なんだったんだ?あの人?」
なんか怪しい気もしたけど、危害を加えるような人には見えなかった。喋り方にびっくりしたけど俺が子供っぽかったからかな?
ただ、あの俺の部屋を見ている時の顔、あの部屋について質問してきた時の顔が無性に心をザワザワさせた。
ちゃんと不動産会社で契約してんだから家になんかあるわけねーだろ、
そんなことを思いつつ、自転車に跨り、門口を出て、彼とは逆の方向に走らせた。
7/13/2025, 5:32:43 PM