恵桜

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--いかないで
---こないで

もう決めたんだ。誰が何を言おうと俺は行く。

---いくな
---くるな

あと一歩なんだ、あと一歩足を踏み入れるだけで未来は変わる。にも関わらず、現在は「いかないで」と訴え、未来は「こないで」と訴える。
俺は何度も未来を見た。同時に何度も過去に戻った。この世界の分岐点とも呼べる過去に。時渡りの能力でなにか世界を変えようと思っても、既に決定されている「現在」とその「現在」の先にある「未来」が俺を襲う。絶対に、この一歩を踏み出せば世界が良くなるのだとしても、世界の理がこの一歩を否定する。
能力には責任が伴う。その能力が強力であればあるほどに、その責任は重くなる。たとえタイムリープの能力を持とうと、同時に全てを背負う責任が無ければ宝の持ち腐れなのだ。

やるせない自嘲とともに、俺は能力を捨てた。

10/24/2024, 11:55:40 PM