【夜の海】
「僕の従兄弟がね、夜の海で」
と、彼は言った。
彼に従兄弟がいないことは知っている。
「裸足で海胆を踏んでしまったんだ」
彼は目を細めてこちらを見ていた。
ああ、人を揶揄う時の顔だ。
「暗いしさ、サンダルを流されたんだ」
彼はちょっとだけ口角を上げた。
どうやら機嫌が良いらしい。
「大変だったらしいよ」
「海胆を踏むとあの棘がさ……」
冗談にしては随分とリアルで。
ゾッとしてなんだ背筋が寒くなった。
「嘘だよ。君のその顔が見たかっただけ」
アハッと笑って、彼は言った。
ああもう、どこまでが嘘なのやら。
「少し涼しくなったでしょう?」
確かに、今日は暑いからね……
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昔、学校の先生がウニを踏んだ話を聞きまして
詳細な描写は自粛しておきます
8/15/2024, 10:39:00 AM